REGENERATIVE-MEDICINE再生医療とは

再生医療とは

再生医療とは、身体の組織が病気や怪我で傷ついたり失われたりした時に、自己治癒能力だけでは十分な修復が得られない場合に、人工的に加工・培養した細胞や組織などを用いて損傷した組織やその機能を再生させる医療です。

人間の体には体の組織を構成している「体細胞」の他に、これから組織の修復を担当する未分化な「幹細胞」と呼ばれる細胞があります。再生医療はこの幹細胞が組織や臓器に分化する能力や免疫を調整する能力、炎症を抑える能力などを利用するもので、組織幹細胞が用いられています。

2012年の京都大学山中伸弥教授らによるiPS細胞の研究におけるノーベル賞受賞などが契機となり、2014年には再生医療等安全性確保法及び医薬品医療機器等法が施行されて、再生医療を成長産業のひとつと位置づけ、世界に先駆けて再生医療等製品を実用化する動きが活発化しています。

整形外科における再生医療とは

整形外科領域における再生医療の適応範囲は幅広く、現在普及が進んでいるのは変形性膝関節症をはじめとした関節症の治療、アキレス腱炎などのスポーツ外傷・障害の分野の下記のような疾患が中心です。

  • 変形性膝関節症
  • 上腕骨外側上顆炎(テニス肘)
  • 上腕骨内側上顆炎(ゴルフ肘)
  • 膝蓋腱炎(ジャンパー膝)
  • アキレス腱炎・腱周囲炎
  • 足底腱膜炎
  • 脊髄損傷
  • 慢性的な痛み

中でも近年、変形性膝関節症に対する再生医療による治療が急速に増加しています。膝関節症をはじめとした整形外科領域の疾患・損傷治療は、従来ヒアルロン酸やステロイド注射により痛みや炎症を抑えながら傷ついた骨や軟骨、組織の自己修復機能による回復を待つか、手術により患部に人工的に手を加える方法が中心でした。

症状の改善が見られず、後は手術しか選択がなかったような整形外科領域の疾患・損傷にも、再生医療の適用により、その中間を埋める新たな選択肢が加わることになりました。

整形外科における様々な治療方法

再生医療にはさまざまな種類があり、ヒトの胚(受精卵)から培養してつくるES細胞(胚性幹細胞)、人工的に作られるiPS細胞(人工多能性幹細胞)、新しい細胞に分化して組織の修復・再生を行う組織幹細胞を使って、体の組織や臓器を修復・再生する研究が進められています。この3種類の幹細胞の中で、現時点において再生医療で最も応用されているのが、組織幹細胞です。

幹細胞は、分化能(脂肪、骨や軟骨、筋肉、血管、神経などの細胞に分化する能力)と自己複製能(自分の分身を作り出す能力)という二つの能力を併せ持つ細胞です。幹細胞治療は、この「細胞を作り出す力」を損傷部位に活用することで、組織の修復が期待できる再生医療です。

これとは別で、整形外科領域においては、血液中の血小板に含まれるサイトカインなどの成長因子の力を利用するPRP療法やAPS療法などが行われています。血液に含まれている血小板、赤血球、白血球の成分が持つ止血能力や抗炎症作用、組織修復能力など、人が元々持っている自然治癒力を利用する再生医療です。整形外科領域では、主に以下の様な治療が行われています。

(体性幹細胞由来のもの)
  • ASC(Adipose Derived Stem Cell:脂肪由来幹細胞)療法
  • ADRC(Adipose Derived Regenerative Cell: 非培養脂肪由来幹細胞)療法

(血液由来のもの)
  • PRP(Platelet Rich Plasma:多血小板血漿)療法
  • APS(Autologous Protein Solution:自己タンパク質溶液)療法
  • PRP-FD(Platelet Rich Plasma Freeze Dry)療法

皮下脂肪組織の中には、組織幹細胞が非常に多く含まれていることが判っています。脂肪から取った幹細胞は体内で最も若々しい状態を保っているという論文もあり、様々な効果が期待されています。ASC療法とADRC療法はどちらも患者様自身の腹部や太ももから採る脂肪組織に含まれている幹細胞を利用するものです。ASCは、6週間ほどかけて幹細胞を培養し、幹細胞の数を増やしてから投与します。一方で、ADRCは、脂肪組織を採取して、培養することなく、遠心分離機にかけてADRCを抽出し、患部に注入します。

PRP療法は、自然治癒力をサポートする治療法として、欧米では頻繁に行われています。血液を採取し、専用の機器で血液中の血小板が多く含まれる部分のみを抽出し、PRPを作製します。このPRPの中には、成長因子が豊富に含まれており、これを身体の傷んだ部分に注射します。APS療法は、このPRPをさらに遠心分離して、タンパク質の成分をより多くして作られるものです。次世代PRPとも言われ、PRPをさらに高濃度に抽出するため、痛みを取る効果、持続効果がさらに高まっていると考えられています。この他にもPRPの中で特に白血球成分の割合を高めたLR-PRP療法や逆に白血球成分の割合を小さくしたLP-PRP療法があります。さらに、PRPを濃縮・活性化させたものをフリーズドライ化し、組織修復に必要な成長因子を豊富に含んだものを注射するPRP-FD療法があります。

<対象疾患と再生医療の治療方法>

一般的な受診の流れ

問診⇒触診⇒画像診断
変形性膝関節症の診断は、一般的には問診や触診から始まり画像診断で判断します。問診では、いつ頃からどのような場所にどのような痛みがあるのかなどを伺います。触診では、膝の痛みや腫れ、関節の変形や不安定性などの状態を調べます。画像診断では、レントゲン検査、CT、MRIなどで検査を行った上で、変形性膝関節症の進行度を判断します。上記以外にも、注射で関節液を抽出して、炎症の原因や程度を調べることもあります。

画像診断による進行度分類
画像診断では、O脚やX脚のような変形の有無、関節のすきまが狭くなる「関節裂隙狭小化」、軟骨の下にある骨が硬くなる「軟骨下骨硬化」、骨がとげ状になる「骨棘」などを確認します。必要に合わせてMRI検査で組織の状態を把握します。そして、これらの所見を基に、グレード0~4に分類します。一般的に、グレード2以上の場合に変形性膝関節症と診断されます。グレード2が初期、3が進行期、4が末期となり、末期に近づくにつれて、とげ状になる骨棘や関節の隙間が狭くなり、生活に支障をきたすようになります。

上記の通り、問診⇒触診⇒画像診断を経て、これまでの治療の有無や内容を確認して、可能であると医師が判断した場合に、再生医療の適用となります。

医師が適切な時期、必要な採血や脂肪採取の量、注射する量・回数などの治療計画を立てます。

ASC(脂肪由来幹細胞)の治療プロセス
まずは脂肪細胞を採取します。局所麻酔を行い、お腹や太ももから20mLほどの脂肪を吸引して採取します。もしくは、皮膚を5㎜程度切開し、米粒1~2個程度の脂肪組織を採取する方法もあります。これらは、所要時間20~30分程度です。採取した脂肪組織は細胞加工施設に送られ、脂肪組織から幹細胞を分離します。幹細胞は、3~6週間かけて培養し、数千万個から1億個程度に増やします。培養された幹細胞は、凍結されてクリニックに送られ、治療直前に解凍し、患者様の関節内に注射します。

ADRC(非培養脂肪由来幹細胞)の治療プロセス
まずはお腹や太腿から脂肪を100mL~360mLほど吸引します。脂肪から不純物を除去し、脂肪細胞だけを残します。専用の機器でADRCを抽出し、患部に注入します。

PRP/APSの治療プロセス
必要な量の血液を採取し、専用キットを使ってPRP/APSを作製します。一般的には、採血からPRPもしくはAPSの作製まで、30分~40分程度要します。

PRP-FDの治療プロセス
採血後、細胞加工施設でPRP-FDを作製します。約3週間後に来院し、PRP-FDを患部に注射します。注射に伴う大きな痛みはありません。

上記のそれぞれのプロセスにおける関節内注射は、大きな痛みを伴うものではありません。また、入院の必要はなく、歩いてご帰宅頂けます。それぞれの再生医療は、施術後定期健診を行い、状態を確認します。一度で治る方もいますが、痛みが残っている場合など、同様な処置を複数回繰り返す場合もあります。

慢性疼痛とは

疼痛は、痛みの継続期間の違いによって「急性疼痛」と「慢性疼痛」の2種類に分類されます。

急性疼痛は、痛みの原因(病気やケガ、熱傷等)の改善から治癒とともに沈静化し、基本的に一過性かつ局所的なものです。

慢性疼痛は、病気や怪我等の治療に要すると期待される時間の枠を超えて持続する痛み、あるいは進行性の非がん性疼痛に基づく痛みで、発症から概ね3か月以上痛みが継続するものをいいます。その原因は様々であり、慢性疾患(糖尿病、癌、関節炎等)、原発性疼痛疾患(神経障害頭痛、線維筋痛症、慢性頭痛等)があるといわれています。慢性疼痛を抱えることで、不安・抑うつ状態・行動意欲の低下・不眠等の症状を伴うこともあり、これにより症状をさらに増悪・複雑化させ、患者様の日常生活動作(Activities of Daily Living : ADL)や生活の質(Quality of Life : QOL)の著しい低下にも繋がります。

一方で、はっきりとした痛みの原因を特定できず、標準的な治療だけでは十分な治療が行えないこともあります。痛みの治療法としては、薬物治療、神経ブロック、理学療法、作業療法、外科手術、カウンセリング(心理療法)等があり、様々な治療法を組み合わせて行う集学的治療が求められます。なお、薬物療法に使われる薬には、次のようなものがあります。

[非ステロイド性抗炎症薬]
体内で炎症などを引きおこす体内物質プロスタグランジンの産生を防ぐことによって、炎症や痛みなどを抑え、熱を下げる薬です。鎮痛薬として一般的に使われるのは、アスピリン、ロキソプロフェンナトリウム(ロキソニン)、ジクロフェナクナトリウム(ボルタレン)、インドメタシン(インダシン)、イブプロフェン(ブルフェン)等の非ステロイド性抗炎症薬です。

[鎮痛補助薬]
鎮痛補助薬は、痛みの治療薬として開発されたものではありませんが、神経障害性疼痛や非ステロイド性抗炎症薬では痛みがとりきれないような場合に使用されます。抗うつ薬、抗不安薬、抗けいれん薬などを用いることがあります。

[オピオイド(医療用麻薬)]
非ステロイド性抗炎症薬や鎮痛補助薬を使っても効果がみられないような強い痛みにオピオイドが使用されます。強い鎮痛作用を示す医療用麻薬で、オピオイドの長期使用には乱用・精神依存の危険性や副作用の問題が指摘されており、がん治療による痛みのほか、他の薬剤を用いても痛みがおさまらない場合などに、使用が認められているものです。

慢性疼痛における再生医療

慢性疼痛は3か月以上続く非がん性の痛みとされており、神経障害性疼痛、侵害受容性疼痛、心因性疼痛の3要因に分けられます。再生医療等の対象となりえる疾患は、神経障害性疼痛及び侵害受容性疼痛と考えられる慢性疼痛です。

一般的な受診の流れ

治療に関する説明及び術前検査
治療について説明を行い、治療内容等に同意頂いた後に、術前検査として採血検査(感染症検査等)をします。

脂肪組織採取
検査の結果と診察により、治療の実施が可能と医師が判断すれば、脂肪由来間葉系幹細胞を培養するために、患者様の脂肪組織を腹部から皮切またはカニューレ等を用いて採取します。腹部から採取が困難な場合には、太腿の内側や臀部等から採取します。脂肪組織を腹部などから吸引の場合は約20cc程度、皮切の場合は10~20g程度を採取します。採取には局所麻酔を使用するため、施術中の痛みは殆どありませんが、まれに痛みを伴うこともあり、採取した部位が元の状態に回復するには、数日かかります。

脂肪由来間葉系幹細胞の培養
採取した脂肪組織を厚生労働省厚生局の許可を取得している培養加工施設に輸送し、概ね約1ヶ月程かけて、治療に適した数まで脂肪由来間葉系幹細胞を培養します。

静脈への点滴投与
投与日当日に医師によって問診及び診察を行い、実施医師の判断で投与の可否を最終的に決定し、培養した脂肪由来間葉系幹細胞を患者様の静脈に点滴投与します。投与時間は1時間から1時間半程度です。

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